2014会長講演要旨
世界的な鉄道の劣化と信頼回復への道

海外鉄道研究会会長 曽根 悟

 2013年には、鉄道の劣化が世界的に問題を起こしました。スイスでは、去年だけで2度も衝突事故がありました。日本国内では輸送障害が史上最悪のレベルとなりました。近年大きな問題となっているのがJR北海道で、安全に直接関係する重大な規律違反を組織的に犯しているのではないか、ということまで起こっています。同じことは、フランスでも起きています。
 一方、今年になってからは有楽町の沿線で火災が発生し、ほぼ一日東海道新幹線が止まってしまいました。JRに火災の原因があったのではありませんが、品川に巨額を投じて折り返し設備を作ったのに活用することも次善の策もとれなかった、という意味では劣化以外のなにものでもありません。
 では、どうすれば信頼回復できるのでしょう。

 鉄道劣化とは、JR北海道の問題をはじめスイス、フランス、スペイン、米国ニューヨークでの事故の他、カナダ、アメリカでの大規模列車火災など2013年に相次いだ事故、そして「品川駅にみる二つの長時間の運転停止」など簡単に列車が止まりすぐには再開しない問題を指します。
 「二つの品川問題」の第一は、2013年11月23・24日、品川駅構内での線路切替のため、東京駅と四国・山陰を結ぶサンライズ瀬戸・サンライズ出雲を運休してしまったことです。今、出雲大社では60年ぶりの大遷宮ということで、世間の注目も集めて観光客も多く訪れています。11月23・24日というのは連休で地元にとってはかき入れ時なのに、東京とを結ぶ列車をバッサリ切ってしまいました。
 もう一つは1月3日の沿線火災で、238本が最大330分、5時間半も遅延し106本が運休。対して臨時列車は、私が把握する一番大きい数字として27本運転されたのみで、しかも品川折り返しは7本だけでした。結局31.7万人に影響が出ました。
 その他、100系で取り組んだ個室や食堂といったサービス改善がいつの間にかなくなって、その面での劣化も進んでいます。

 2013年1月10日にスイス北東部(ラインの滝近く)のノイハウゼンNeuhausenで起きた事故は単線2ルートの区間で、ちょうど合流する地点で衝突してしまいました。
 事故は、シャフハウゼンSchaffhausen発チューリヒ中央Zurich HB(地下駅)経由アルトシュテッテンAltstetten行きS11系統19126列車(機関車と2階客車編成)と、ヴィンタートゥールWinterthur発シャフハウゼンSchaffhausen行きS33系統20330列車(ターボThurbo電車)とが、7時34分に渡り分岐で側面衝突したものです。17名が負傷。実質単線の区間で誤出発したのが原因です。
 スイスでは、保安装置=ATPが日本の国鉄が1966年に導入したATS-Sに近くて低機能なため、その日本の大手民鉄が1968年に導入して以降大きな事故は起こしていない装置レベルの「ETCS-LI LS」への更新を2018年までに済ます予定でした。しかし今回の事故で、2017年に繰り上げることにしました。
 7月12日にフランスのブレティニ・スール・オルジェBretigny-sur-Orgeで発生した事故では、時速137km/hで転轍機に進入した列車(パリ・オステルリッツ16時53分発リモージュLimoges行き3657列車、乗客385名)の3両目と4両目が脱線、他の車両も脱線・横転してプラットホームに激突しました。この事故ではホームにいた乗客も含め7名が亡くなりました。問題は、その転轍機が一週間も前から故障していると把握していたのに放置していたことです。これはJR北海道の事故と類似しており、鉄道が劣化している典型例といえます。

 非常に有名なスペイン高速鉄道の事故では、7月24日にサンティアゴ・デ・コンポステーラSantiago de Compostelaというキリスト教の聖地で、15:00マドリード発、フェロールFerrolという西北端の街へ行くAlvia4155列車が、駅手前4kmの地点で153km/hという大幅な速度超過により脱線転覆し死者79名、負傷者約140名が発生しました。後にビデオも公開されたのでご覧になった方もあるかと思います。
 この列車にはS730系という非常に変な車両が投入されていました。この車系は動力集中で軌間可変のS130系という車両に、非電化区間でも走行できるよう両端客車の各1両にディーゼル発電機を搭載改造したものでした。その改造を急ぎすぎて重心の高い車両ができてしまい、広軌といえどカーブでの大幅な速度超過に耐えられなかった、ということです。
 高速新線は標準軌で建設するのが基本ですが、北西部地域ではフランスからTGVが乗り入れてくることはまずないだろうと、スペインでの標準で使い勝手がいい広軌で建設されました。しかし、これが徒となりました。高速新線からそのままカーブの多い在来線に直通することとなり、現場では高速設計のトンネルからすぐに在来線併設の急カーブに入る線形になってしまったのです。
 保安設備は、トンネル内で高性能のETCS L2からATS-SレベルのASFAに切り替わっていました。この装置は、速度超過の警報は鳴りますが、確認ボタンを押せばそれっきりというタイプで、結果的に高速のままカーブに突入してしまったのです。
 この事故は急激な路線拡張という意味で、中国での事故と原因が類似していると考えられます。特に、S130系に無理な改造をしたのが原因ではないでしょうか。それから、広軌高速線部分開業時の設計の問題として、200km/hから80km/hへの速度規制がかかる区間で強制的に速度を落とさせる仕組みが必要でした。つまり、高レベル信号から低レベル信号の区間への接続箇所では高レベル信号自体で減速させる設計が必要なのに、そういうことをしていなかったことが問題だったと思います。
 アメリカの通勤鉄道でも二つの事故がありました。一つはメトロノース鉄道Metro North Railroadで5月17日に起きた脱線衝突事故。もう一つは、メトロノース鉄道を含むニューヨーク近郊鉄道MNRRで、スペインと同じく速度超過による12月1日にあった転覆脱線事故です。5月に起きた事故では死者は出なかったものの(負傷者は乗務員を含め76名)、12月に同じ場所で発生。しかも今度は死者を4名も出してしまいました。12月の事故では制限速度30mphのカーブを82mphで通過したのが原因で、しかも手前の直線区間でも70mphの制限速度で、ATP(Positive Train Control)があれば防げた事故でした。7両編成の客車の後部がディーゼル機関車で、推進運転中に脱線し、先頭の車両はあわや湖沼に突っ込むところでした。
 そのほかに大火災が発生しています。7月6日にカナダ・モントリオールのラック・メガンティックLac Meganticで発生した火災事故は、結果的にモントリオール・メイン・アンド・アトランティック鉄道Montreal Maine and Atlantic Railwayという運営会社を破産させてしまいました。勾配区間で乗務員が降りた間に、貨車が勝手に坂道を転がり落ちてしまいました。貨車はどんどん加速して坂の下にある街で脱線、積んでいた石油から火災が発生して、死者47名と人口の3分の1にあたる2,000人が避難しました。とても補償ができないので破綻したのです。
 12月30日にはノース・ダコタNorth Dakotaでやはり石油輸送の貨物列車が、脱線した列車と衝突して爆発・炎上。広範囲の多数の住民を避難させました。二つの事故の原因は違いますが、原油を鉄道輸送する危険性に議論が起きています。
 これらの事故は、日本での例を学べばたいていは比較的容易に解決できるのです。1967年に運輸省が出した通達(国鉄のATS-Sより安全性が高い装置の大手民鉄への導入)など、欧米でも参考にできたはずです。要するに人は間違えることがあるという前提で、装置で防げるものは防ぐべきでした。そうしておけば、スイス、スペイン、アメリカのMNRRの事故は防げたはずです。
 しかし、JR北海道やSNCFのように、悪いことを承知で放置した結果事故になってしまった、というのは別の、そして深刻な問題です。

 ここで、衝突・脱線の最大要因をほぼ絶滅させた1967年の大手私鉄向け運輸省通達(昭和42年鉄運11号)をちょっと見てみましょう。
 国鉄は1962年の三河島事故を契機に、それまであった自動警報装置に「警報が鳴ってから5秒以内に確認ボタンを押さなければ自動停止する」機能を加えたATS-Sを、1966年までに全線20,000kmに整備しました。国鉄的な発想で全線に同じ装置を整備したのですが、これが非常に大きな問題になりました。ボタンを押しさえすれば列車は動き続けるというのが、列車本数がきわめて少ない路線だとそれでも機能しても、首都圏の高頻度区間だと頻繁に鳴り、運転士はうるさいからボタンを押して音を止めることが習慣化したり、ATSそれ自体を切ってしまって事故が多発しました。
 後からATSを導入した民鉄には国鉄での反省を踏まえ、ATSを切れないように自動投入とし、常時速度照査にしました。常用ブレーキを使って45km/hまで減速したら自動で緩む、というものがいちばんいいのですが、それよりも厳しい「非常ブレーキによってもよい」ということにもしました。
 結果として、当時としては非常に珍しく機能仕様と期限を明らかにした通達となりました。通達を受けて民鉄は困りましたけど、信号メーカーと相談しながら正常の運行を妨害しない設備を構築しました。この時の通達内容や導入された機器が非常に有効だったことは、その後40年間の鉄道事故の記録が明確に証明しています。大幅な速度超過による大事故は、大手民鉄では発生していないのです。

 私鉄向けATSと比較して、国鉄のものの改善も当時指摘されていました。私も鉄道ピクトリアル1968年5月号で、福知山線事故の恐れとともに、1967年の通達についての基本的な考え方を掲載しました。つまり、

  • 人間の操縦に対するバックアップとしてのATSと、ATCというブレーキ扱いに関しては機械が主導的に働く装置の基本的な考え方の違い
  • 国鉄のATSで明らかになった問題点
  • 保安装置設計の原則、つまり「危なそうなことをやろうと思っても、できなくする」原則
  • 通達の内容がいかに適切であったか
  • 民鉄が本格的にATSを導入した際の苦労した点
を記載しています。
 また、私鉄向けATSの内容として、
  • さまざまな方式の分類
  • 非常ブレーキで止めるのか常用ブレーキで対応するのか
  • 追突可能な速度と最低照査速度の関係
について記載しました。
 追突可能、というと驚かれるかもしれませんが、これは鉄道の運転にとっては必要なことなのです。前方の列車に後続が連結するというのは、きわめてゼロに近い速度での衝突が行われてこそ可能なので、絶対に衝突しない=前方の列車への接近を完全に排除したシステムを作ってしまうと、鉄道はきわめて限定的なサービスしかできなくなります。
 どんな速度で衝突させれば併結や増結するのに適切か、そしてその速度と最低の照査速度との関係など技術的に難しい問題がありました。各民鉄は非常に困って、知恵を絞った結果、従来の信号がルートシグナルという考え方であったのを、スピードシグナルの要素を加えたことで両者の折衷型に変えました。しかし国鉄は、相変わらずルートシグナルに固執したので、最近まで問題を残してしまいました。
 その他重要な事項として、
  • 曲線や分岐の速度制限にも応用できること
  • 運転士と保安装置との危険な関係(保安装置への誤った頼りすぎ、本来すべきことをしなくなる)
  • 保安装置の評価方法として、意図的に事故を起こしてみせる意地悪な思考実験
などを挙げてあります。当時18種類くらいあったATSの中で、比較的抜け道の多かった南海電鉄の方式をモデルにわざわざ意地悪な思考実験をやって「こうするとこれくらいのスピードでぶつかって、これくらいの事故が起きますよ」と、シミュレーションもしてみました。
 当時、軽量車は危ないのではないかという論調がマスコミにあったのですが、スチール製の重い車両でも側面の強度はごく弱いので、単純に軽量車が危ないとはいえないと書きました。
 それから、人間は予想外の反応をすることがあるものです。実際に南海電鉄で起きた事故では、「こんな場所で信号が赤になるはずない」と思い込んでいるところに予想外の赤が現示されたものだから慌ててあらぬ振る舞いをした、などと自供されていました。普通の閉塞信号機であれば「赤というのはどこかで大きな問題が起きているのだ」と思ってただちに止めたところでしょうけど、「そんな、ありえない」と思って赤なのに逆に加速した、というのです。落ち着いて考えてみれば「そんなことはおかしい」と気づくのですけど、常に冷静とは限りません。「だからそういう事態にも耐えられるような装置を作りなさい」ということです。

 では、なぜ国鉄・JRが取り残されてしまったのか、です。
 かつて国鉄と運輸省は同じ仲間でありました。同じ省の外局と内局という感じで、一方が他方を監督するという関係でなかったのです。それから、1966年にATSを全線に整備したばかりでしたから、「それはダメだから取り替えろ、と言い出すのはマズイ」となったのでしょう。結局、国鉄・JRは私鉄では起きないさまざまなトラブルを発生させました。
 例えば、確認動作で無効となる欠陥に起因するものが、
1968.7.16 御茶ノ水での電車追突
1972.3.28 総武線船橋での電車追突
1988.12.4 東中野で電車追突(同一箇所で3度目)
1989.4.13 飯田線北殿で電車衝突
と、こんなに起こっています。97.12.12のJR東日本大月での事故でもATSを解放していた模様です。
 速度超過を原因とする事故は、たくさんあります。なかでも、73年の平野事故は非常に有名な事故でして、さすがの国鉄も「速度照査機能が要る」と認識したようで、後のP型にあたるシステムの原型をつくるのですが、いろんな事情があって普及しないままになってしまいました。結局その後も、碓氷峠では速度超過で転覆する事故があったし、函館線では3度にわたって脱線事故が発生しました。1996年の函館線の事故は先ほど説明したカナダによく似ていまして、上り坂を力行中の機関車で機関士が居眠りしてしまったまま下り勾配に差し掛かったものですから、列車はどんどん加速してついには脱線転覆してしまいました。これでさすがにJR北海道も堪えまして、ある地点をある速度以上で走ると非常ブレーキがかかる装置を設置しました。
 名古屋の1982年の事故は、飲酒運転というけしからん理由で入れ換え作業中にスピードオーバーしてしまいました。西明石の事故も飲酒運転のあげくの速度超過でした。
 福知山線事故の一カ月前には土佐くろしお鉄道で事故がありましたが、これは運転士の健康状態によるものでした。これが民鉄系のATSならば、場内に接近したところで75km/h、場内信号機で45km/h、車止めの直前で22km/hのチェックがかかるところでしたが、この線を建設した鉄建公団が国鉄型を入れたものですから、ホームに進入するまでに減速されている前提で車止めの直前の22km/h速度照査だけでした。実際には、約110km/hで突っ込んできたものですから、ほとんど何の役にも立ちませんでした。
 これではダメだ、と当時のJR四国の幹部が危機感をもちました。土佐くろしお鉄道で起きた事故ではありましたが、もしもこれが自社の高松駅で発生したら大変なことになるからです。その年の8月には、「事故を起こそうとしても起こせない」レベルにまで改良しました。でも一カ月後の4月に、JR西日本の福知山線で106人の死者が出る大事故が発生してしまいました。国交省の指示で「起こしたくても起こせない」システムをJR西日本が整備するのに、期限よりは一年以上早かったものの「その年中」には間に合いませんでした。
 無閉塞運転の取り扱いミスによる事故については、これはJR東海と九州で似たような事故が起きました。フェイルセーフ設計の信号システムでは前方が危険でなくても赤を出すことがある、ということが運転士の間でわかってきたので「また狼少年だ」と思ってそのまま進行したら衝突した、ということです。これらは「一旦停止の後、指令の許可を得て赤信号を超える」という制度を導入したようですが、最徐行で進行するという情報をATSに反映させて追突事故を防止する、ということも可能です。
 さらに、複線区間での退行が原因という事故も結構起こっています。

 ということで、ここまで見てきた「事故を防ぐ」話も、民鉄式のまともなATSを導入するとある程度は解決するはずです。
 しかしここから先は、どうしようもない実態と、その対策の話です。JR北海道も民鉄に範をとればある程度解決するでしょうけど、その民鉄も近年急激に悪化しています。国交省のミスリードの問題はあると思います。でも、国鉄以来の「まあ、JRはなんとかしっかりやってくれるだろう」感覚ではもうダメですね。
 今回のJR北海道の一連の事故としても、交通事業者として安全を維持できないのは明々白々で、だから安全統括責任者が国交省によって解任されたのでしょう。この会社は、安全統括責任者が機能していないからこういうことになった、と見なされたのです。「悪いとわかってて放置した」のは、これまでにない新たな問題です。これはもう、「私鉄に範をとればいい」とか「こうすればよい」というアイデアすらありません。
 JR北海道の問題を、もう少しとりあげておきます。マスコミがよくとりあげるのが、2011.5.27の石勝線での特急が脱線し炎上した事故と、2013.9.19の大沼での貨物列車の脱線事故ですね。でもそれ以上に、2011.6.14〜16にかけて追分駅出発信号機で4件も相次いで危険側に現示したことの方が、大きな問題だと思います。信号機は「安全側の誤動作は許す」という設計思想で、「青を出してよいときに赤を出しても仕方がない。安全のためには仕方がない」のですが、「赤を出すべき時に青が出っぱなし」などとんでもないことで、それが4回も相次いで発生してしまいました。
 ほぼ同一箇所で貨物列車が脱線するという事故も2度起きています。2012年から13年にかけての冬に、4,206本という過去の最大規模(1,744本)の2.5倍にも及ぶというきわめて大規模な運休を数えてしまったことも問題です。かつてのJR北海道というのは、雪が降ると喜ぶ会社だったのです。雪が降るとマイカーを運転するのが怖いから、人々はバスと鉄道に帰ってきたのです。実際、雪が降ると売り上げが増えていたので、確実に列車が走れるように使用頻度の低いポイントは固定して故障しないようにして、多少遅れても列車はなんとか走る工夫を凝らして走り続ける気風の会社だったのです。ところが、いつの間にか冬に弱い会社になっていました。古い車両を使い続けているので、183系気動車の出火も発生しています。
 とにかく、そういう体質が厳然と続いてきたのです。あげく、データ改ざんでやるべき作業もしない気風を作り上げてしまいました。では、JR北海道はどうしてそんな会社になったのでしょう。
 一つは経営基盤の問題です。国鉄分割民営化の時にいわゆる「三島会社」は鉄道事業で赤字が発生するのはわかっていましたから、会社として成り立つように経営安定基金をもたせ、その利息で穴埋めすることにしました。一方で本州の3社は儲かることがわかっていましたから、国鉄が積み上げた借金を儲けに応じて負担させることによって、そんなに大儲けできないように制度設計されました。
 初年度はその考えでうまくいったのですが、2年目からは低金利政策もあって急激に状況が変わってしまい、借金を受け継いだ本州は大儲け、それに対して金利で穴埋めしないといけない三島会社は大変な苦境に陥ってしまいました。国鉄改革時の構想がうまくいかないなら早期に手を打てばよかったのですが、「貧乏会社だ」と言い訳するのが身についてしまったのでしょう。腐った木の枕木をコンクリートに換えなければならないのに、「お金がないから」とできなかった。できなかったのではなく「しなかった」のですが、「できない」と言い訳する風習が定着したのです。
 もう一つは、国鉄型というか役所的な組織を引き継いでしまったことです。トップを本当の現場を知らない人で占めてしまったことが、他の三島会社との大きな違いになってしまいました。四国・九州では鉄道を全体的にわかる車両系の技術者がトップに就き、早い段階で国鉄や役所的な組織とは決別して民間的なやり方をしたので、あまりひどい目に遭わずに済みました。
 では、このJR北海道をどうすればいいのでしょう。公共性の強い仕事をしている会社ですから「けしからんからつぶしてしまえ」とはいきません。
 経営基盤の確立は国の責任でやるしかありません。管理ができないからにはどこかに助けてもらうしか仕方ありませんが、一般企業のように銀行から来てもらうことがナンセンスなのは、ちょっと鉄道を知っている人ならおわかりいただけると思います。
 それならば他のJR、特に可能性があるのはJR東日本だと思います。形態としてはいろいろあるかと思いますが、安全に関する限りJR東日本の子会社的な存在となるしか再生する道はないと思います。幸いにしてJR東日本とJR北海道はさまざまな相互信頼関係が続いてきました。JR東日本が始めた「大人の休日倶楽部」という営業施策もいつの間にかJR北海道のエリアまで適用されていますし、列車の運行管理という非常に権限の強いものもJR東日本の津軽線に関してはJR北海道に委託しています。こういう風に昔から協力し続けている間柄ですから、JR北海道としてもJR東日本依存はやりやすいだろうと思います。
 とにかく、社員が元気になるというのは非常に重要です。「自分の会社はダメなんだ」と思わされて働いているようではロクなことがないので、明るい話を提供していかないといけません。それは、函館まで新幹線が延びてくる時よりも、札幌に達した時に飛行機に勝てるような政策ではないでしょうか。今の見通しでいくと札幌まで5時間以上要して、新千歳空港が札幌から遠くても飛行機の方が有利です。一方、4時間を切れば競争が有利になるわけで、その具体的なアイデアもJR北海道が提案しているようです。
 札幌まで延びるのに若干時間もありますから、「その時に飛行機に勝てる」が明確なターゲットだと言い出せばJR北海道は元気になります。大部分の区間はJR東日本を通るのですから東日本も元気になる、という処方箋も考えられます。

 ここから後は輸送障害の話です。
 国土交通省が出している公式なデータに、1987(昭和62)年、すなわち国鉄分割民営化の最初の年度から、2012(平成24)年度までの輸送障害発生件数の推移というグラフがあります。この棒グラフには、上から部外要因、部内要因、災害と理由別に輸送障害が何件起きているのか記載されています。
 これはJR在来線のグラフですが、見ていて「何か変だな」というのが、平成17年度まで右肩上がりに増えていたのに、突如21年度まで減少していることです。そして、22年から急激に増えています。この17年から21年度の間に、大きな変化があったのです。これを私は「国交省のミスリード」と呼んでいます。
 17年度までは全ての運休が「輸送障害」として報告義務があったのを、18年度からは事前に周知された積雪等・保守・労働争議による運休と、運転整理のための運休で最大待ち時間が30分未満は報告から除外してよい、とされました。要するに、「この日は線路保守のため列車を運転しません」と事前周知すれば報告しなくてもよろしい、となったのですね。
 30分以内の運転整理というのは、例えば朝の山手線のように2分半間隔で運転している線区でちょっと下手な運転士が1分遅れを生じさせてしまうと、3分半ぶんだけの乗客を受け入れなければならなくなってますます電車が遅れるので、前の電車をわざと待たせるのです。こういう手法は昔からあったのですが、この頃からJR東日本が乱用し始めました。今や平日8時頃に定時運転している山手線が8時半頃には3分遅れ、9時頃行くと5分遅れ、9時半頃行くと10分遅れというような状況になっているのに、10時か10時半頃には定時運転に戻っているのです。なぜなら、10分遅れだと3本間引けば定時運転になるのです。
 どの列車も30分以上待たせるひどい状況にはなっていませんから、この方法でダイヤを回復することを過度に実施するようになりました。今や山手線一周60分でなく62〜63分になっていて、そのうち遅れが拡大したら1本を間引けばつじつまが合う、というようなことをしています。そういうやり方を、「あれもできる、これもできる」としているうちにひどいことになったのが、最初にお話ししたサンライズ出雲・瀬戸の運休です。「工事に伴う事前に周知された運休」ですから、ルール上は構いません。ただ、人気の地方へ行く列車を二日にわたって止めてしまうなんて、まともに考えればあり得ないことも平気でしてしまう会社になってしまったのです。民鉄は決してこういうことをやりませんが、JRには「そんなこと知ったことではない」という人が山ほどいるわけです。営業サイドからはクレームがあったはずですが、「工事のためには必要です」と言われると仕方ない。
 さっきのグラフにしても、本当は17年度以降も右肩上がりに輸送障害の件数が増えていたのではないか、と思います。あくまで私の想像ではありますが、サボリを許して件数だけ一時減少しても、とうとうサボリの種も尽きて22年度から再び増加し始めたのではないでしょうか。でもそういうデータは発表してくれませんから、うそか本当かはわかりません。
 同じグラフで、民鉄版というのもあります。数字はかなり小さいのですが、傾向は似ています。JRと同じく18年度にガクッと減っていますが、結局はその後増加しています。
 問題は件数でありまして、JRの表からは新幹線が除外され、民鉄の表からは軌道が除外されています。といっても、軌道の規模など知れています。それに対し、JRの数値から新幹線を除くと差は大きなものになります。輸送人キロは、非常に乱暴な言い方をすれば民鉄のそれはJR在来線の2倍です。にもかかわらず、JRが4,000件以上あるのに民鉄は1,300件ほどしかありません。
 いずれにしましても、JR・民鉄とも輸送障害は増加しています。しかも発生率でみると、JR在来線は民鉄と3倍の開きがあります。乗客の影響というのは、継続時間と影響範囲からみて10倍の開きがあると考えられます。
 この表(下記の表)は、平成24年度の輸送障害の発生件数を、列車キロで数値化したものです。列車走行百万キロあたりの発生率の推定値ですが、JR在来線が中小民鉄と同程度の数字になっているのがわかります。ちなみに、事故発生件数というのは年度によって大きな変動がなく0.6でJR在来線も民鉄も推移しています。でも、輸送障害に関しては7.1と、10倍も大きな数字になってしまっています。中小民鉄もやはり10倍くらいですが、対して新幹線や公営地下鉄メトロは障害が少ないといえます。ともかく、数値の悪い箇所にマークしていくと、ずらっとJR在来線に並んでいることがわかるわけです。

国土交通省の輸送障害統計

列車走行百万キロあたりの輸送障害発生率推定値(平成24年度)

部内 部外 災害 合計
係員 車両 施設 合計
JR在来線0.41.10.52.03.02.27.1
JR新幹線0.00.20.00.20.10.30.6
民鉄等0.10.30.20.60.71.22.5
 a大手0.00.10.10.20.80.31.3
 b公営メトロ0.00.10.10.20.30.10.7
 c新交通0.00.60.51.20.21.52.9
 d中小0.11.30.92.30.94.88.0
 a+c+d0.10.40.30.70.81.42.9
路面電車0.11.30.31.21.71.54.4
合計0.20.70.31.21.71.54.4

 では、なぜ輸送障害を減らさなければならないのでしょう。
 もちろん、事故をなくさないといけないのはいうまでもありません。しかし事故の発生で乗客数が減少することはありませんが、障害の多発で輸送に安定性を欠くと乗客離れにつながります。それも、はるかに危険なマイカーや、他の交通機関、路線バスやハイウェイバスに逃げるのです。とにかく安定性に欠ける状況になってきていることは、乗客のつなぎ止めに非常に大きなマイナスになるところまできていると私は思います。
 できるだけ鉄道に客を集めることが、交通安全とかエネルギー問題にとっていい方向になる、というのはいうまでもありません。その点においても、世界の鉄道事業は輸送障害を減らすということに、もっと力を入れなければならないと思っています。
 鉄道係員の取り扱い面でみると、JRと民鉄にそう大きな違いはありません。もしJRの職員が本当にチャランポランな仕事をしていたら、安全性の数値だって悪くなるはずだからです。JRの発生率は突出して大きいのに安全実績には差がないことから、容易には結論づけられません。ただ、各JRに共通する問題として、「年齢構成の歪み」が指摘できると思います。国鉄末期からJR初年度にかけて新規採用がほぼゼロだったので、40歳代の職員がほとんどおらず年齢層がズレていることから、伝わるべき技術やノウハウが伝わっていないという大きな問題を招いています。また、民鉄では昇進の度に別の系統の職場を渡り歩いて鉄道全体を眺めることができるのに、北海道に象徴されるようにJRでは系統内部だけの昇進になっているがゆえに専門家が見逃している状況になってしまっている、とも考えられます。
 一方、車両故障の面ではJRは民鉄の3倍あって、それよりも多いのは中小私鉄と路面電車だけです。JR在来線の車両数で大きな割合を占めるJR東日本は、京浜東北線209系に懲りて、E231系でも余裕が少ないとE233系を投入したのですが、209系を置き換えた2012年のデータでも増加していたので、結局、車両が輸送障害の増加要因とは考えにくいのです。ただ、JRの場合は車両部門と他部門との連携が歴史的にうまくいっていない感じはします。昔々の話ですが、モハ90形という高性能の車両を開発したものの地上の変電所が追いつかないのでオールMから8M2T、そしてさらにトレーラを増やしたので高性能とは呼べずに「新性能車」と呼ばざるを得ない車両にしてしまった経験もあります。これに象徴されるように、車両が独走してもうまくはいかないのです。
 施設故障の面でも、JRは民鉄より明らかに多く発生しています。JR北海道の異常な状況が全体の数値を若干引き上げている可能性はあります。ただ、そうとばかり言えないのは、首都圏でも信号・分岐器・電車線トラブルが多発しているからです。関東の民鉄より明らかに多い印象です。要するに、かなりひどい施設を使っている部分がまだある、ということですね。
 部外要因もJRが突出しているのですが、個々にみればいくつか思い当たる点があります。例えば、沿線の竹に降雪が付着して線路内に倒れ込んできて列車が運休する、といったケースは民鉄ではほとんど見られません。普段から目の届き方が違うようです。
 災害面については、JRと民鉄に大きな差はなく、同程度と見なしたいと思います。ことに災害は地域差が大きいものですから、両者の比較はあえてする必要は少ないと思います。
 部外要因もJRが突出して大きいのですが、これも先ほどの沿線の竹のように、普段から目の届き方が違っているようです。とにかく、建築限界を侵している樹木、他人の土地からの落石などもJR特有の現象かと思います。
 運転整理の手法はJRと民鉄では大きく違うと、私はみています。JRはさっさと止めてしまいますが、民鉄は必要があれば回送列車や特発列車を出して極力早期に定時ダイヤに戻そうとします。どうしても動けない場所が出ると、民鉄は区間運休にして残りは動かそうとしますが、JRは広範囲に列車を止めます。中央線の場合は国分寺とか水道橋に非常に立派な折り返し施設を作ったのですが、有効に活用したことはありません。
 自殺と思われる事象の処理について、一部の民鉄は警察・消防との長年の信頼関係が構築できているので、東急では3〜15分の停止で運転再開しています。30分以内というルールからすれば、これは輸送障害に該当しません。でもJRはそうもいかず、消防が入りますと40〜80分も止まってしまいます。

 では、どうすれば信頼回復できるのか、であります。
 まずは事故になりそうな不安は除去してしまうということ。それから、現実に危険なのはプラットホームと踏切に集中していますから、こういうものを取り除くことをJR各社とも真剣に取り組んでもらいたいと思います。それから、近年、過度の標準化とかいろいろな場面で見えている国鉄回帰現象から脱却してもらいたいですね。

(2014/01/26 海外鉄道研究会総会にて)


会長講演要旨の扉ページに戻る



E Mail

Top Page


inserted by FC2 system