1989会長講演要旨
イギリスの時刻表

海外鉄道研究会会長 小池 滋

 今年、1989年は海外鉄道研究会の15周年ですが…東ドイツの鉄道150年、フランス革命200年記念の年に当たります。「時刻表」の元祖であるイギリスのブラッドショーの時刻表がはじめて登場したのも今から150年前の1839年10月でした。
 時刻表は鉄道事業の開始と共に必要なもので(道路のように勝手気侭に走るわけに行かず)決まった時刻に決まった列車を安全に走らすため、また利用客にも予め発車時刻を知らせなければならないので、企業として必要欠くことのできないものです。
 最初の鉄道会社リバプール・マンチェスター鉄道が1830年9月15日に開業した当時の時刻表は駅頭にビラを掲示したものでした。
 1831年3月、リバプール・マンチェスター鉄道のビラには、発車時刻と運賃、それに注意事項などが記載してありました。
 列車は平日:1日7往復(1等列車4本、2等列車3本)、日曜:1日4往復(1等列車・2等列車それぞれ2本)となっています。
 注意書きでは、改札が10分前、チップは不要…などで、各駅毎に告知してありました。
 この鉄道は大変評判がよく、予想外の経営の成功から10年後には未曾有のラッシュとなり、また建設ブームとなりました。
 ことにイングランドは平地が多く、40年代には網のように路線が発達しましたが、こうなると各線・各駅それぞれ異なった時刻表が掲示され、利用客はそれぞれ駅まで行かないと発車時刻が判らず、旅行計画を立てるのにも不便で、問い合わせの確認に手間どる…状態となりました。

 そしてはじめて一冊の本の中に各線・各列車の時刻を網羅した刊行物を出版したのが1839年10月 George Bradshaw(1801〜53)の時刻表でした。
 この時刻表のデザイン的スタイル−駅名・列車名など−は今日の時刻表と基本的に変わらず、150年前ビラ程度のものしかなかった時に、これだけのものを創造した企業的才能は大したもので、判りやすく正確で有意義なことです。
 これは初め単行本の型で出ましたが、その後需要が多く、3年後1842年6月からは月刊として定期的に出版され(途中戦争などで中断することもあったが…)順調に伸び"ブラッドショー"の名は、それが何であるか(第二次大戦までは)知らない人がないほどになっていました。[シャーロック・ホームズなどに扱われている…]
 "Bradshaw's Railway Guide"はその後Shipping、Hotelが加わり、戦後の1961年6月号までの約80年間刊行されました。その情報を伝える機能的面は高く評価されるものでした。
 しかしあまりにも情報量が多いこと−列車編成・スピード・曜日により異なる列車などイギリスの複雑な列車運行について脚註があまりにも詳しすぎ、正確ではあるが、実際に使ってみようとすると文字が細かく読みにくい、とても開く気がしない…ということとなりました。
 19世紀後半(1851年以降)イギリス経済力が昂上し、また1851年には第一回の万国博覧会が開かれたのを機に海外旅行が盛んとなりましたが、ブラッドショーはすでに1847年に"Continental Railway Guide"を発刊していました。しかしこれは例によって厚くて重く細かくて繁雑で、海外旅行などにはハンディでないため不向きとなり、結局これは失敗に終わりました。

 そこに浮上したのがThomas Cook(1808〜92)でした。彼の本業は印刷業でしたが、1841年余戯で試みた団体旅行が、19世紀後半の旅行ブームに乗った旅行エージェントに事業拡張する切っ掛けとなりました。
 ブラッドショーが時刻表を初めて発刊したのと共に、クックは旅行代行業の創始者となったわけです。
 "Cooks Continental Timetable"は1873年3月(ブラッドショーに20数年遅れて)発刊しましたが、それだけに情報量は少ないが、見易く要領よくできていて、今なお盛んに用いられています。
 これには歴代の編集長の功績にもよりますが、とくにJohn H. Priceの鉄道マニアとしてのうんちくも多大の影響があります。
 それからもう一つ、"ABC Railway Guide"というのがあります。これは全国の駅名がABC順に(電話帳のように)並んでいるもので、ロンドンからの距離・運賃・所要時間・大きい町の人口が載っています。−ロンドンから行き先の駅名(乗換がある場合は乗換駅)と、発車時刻だけが記されているもので途中のことについては、いっさい省略されていますが−これが案外利用されました。(1930年頃にはブラッドショーかABCかと言われるほど利用されました)
[アガサ・クリスティの"ABC殺人事件"などはこの時刻表から発想した…と思われます。]

 以上「時刻表」の社会的意義・長所と短所・マニアとしての興味などについて、お話ししました。

(1989/01/22 海外鉄道研究会総会にて)


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